北アルプス2007赤木沢 |
歩行データ:距離 16.8km、標高差 0m、登り 1103m、下り 1103m
北アルプス第二日目は赤木沢遡行である。評判からしてこの沢は最高の沢であるようだ。本格的な沢は三度目であるが、早くも一級の沢に来ることができたのはラッキーである。赤木沢は難度の高い登攀的要素はほとんど無く、どちらかというと素人向きの沢である。 薬師峠のテン場の朝は早い。3時にはまわりのテントからごそごそと動き出す音が聞こえてくる。昨夜は8時には寝静まったテント村なので、睡眠時間は十分である。真っ暗闇のテントの外に出て夜空を見上げると満天の星空が広がる。月も出ていないので星空観測には絶好の条件だ。夜空を横切る星の帯はまさに天の川。MilkyWayとはよく言ったものだ。ペルセウス流星群がちょうど極大日と重なり、1分に2〜3個の流星を見ることができた。 赤木沢の行動は長丁場となるため、暗いうちから行動開始。4時にはテン場を出発する。太郎平小屋までは昨日歩いた道なので暗くても問題ない。しばらく歩いて後ろを振り向くとテン場が夜景となっていた。テントの中に明かりがともり、色とりどりのテントが浮き立っている。 太郎平小屋につく頃には、山の稜線がシルエットとして浮かび上がってくる。山や大地は真っ黒で、稜線から光が発して空を青黒く照らしている。まだ薄明が始まったばかりで、日の出まではまだ時間がかかりそうだ。太郎平小屋の先の木道を左に折れて薬師沢の方へ下りていく。 沢に架かる橋を渡ったところで、休憩に入る。ここで昨夜のうちに作っておいたおにぎりを朝食とする。今朝は時間を惜しんでとにかく早くテン場を出発してきている。この日は相当数のパーティーが赤木沢に入ってくることが予想された。休憩場所の周辺には色とりどりの花が咲いていて、それらを写真に収めに回った。まだ光が少ないが、こんな時には手ぶれ防止機能のあるレンズの威力が発揮する。 木道の脇をススキのような草に朝露が付いているため朝日を浴びてきらきらと輝いている。とても良い感じだったので写真に撮ったが、帰ってから画像を見るとたいして綺麗には撮れていなかった。 【正面に黒部五郎岳】 中俣の木道を歩いていると正面に黒部五郎岳が見える。明後日はあの山頂に立っているはずだ。 行く手の正面には黒部五郎岳が見えている。山の上半分を切ったように平らっぽくなっていて火山のようだ。しかしこの山は氷河時代の山で、反対側はカールになっている。しばらくアップダウンのない山道を歩き、やせ尾根を下っていくと薬師小屋に到着する。やせ尾根からは黒部川が音を立てて流れているのが見えた。これからこの川を上っていくのだ。 【薬師沢小屋前】 【薬師沢小屋】 収容人数:80人 宿泊料金:1泊2食/8400円,素泊/5200円 水場有り 営業期間:7月上旬-10月中旬 薬師沢小屋の前のテラスでは、これから出発する人たちが準備中であった。小屋のすぐ前に吊り橋があり、それを渡るかと思ったらその手前に沢へ下りるハシゴがあり、それを伝って河原に下りた。しばらく奥の廊下の河原を歩き、入渓場所直前で沢靴に履き替える。赤木沢は勝野さんがよく知っているので心強い。履き替え中でも次々に後続のパーティーが横を通過していく。沢と言えば若者のイメージがあるが、そうではなく中高年がしかも後年の部類が多い。 【奥ノ廊下】 地図を見ると黒部湖の下流を流れる川が下ノ廊下、上流が上ノ廊下となっており、上ノ廊下は薬師沢のあたりで上流に向かって二俣に分かれ、薬師沢と奥ノ廊下になる。その奥ノ廊下に流れ込んでいるのが赤木沢である。なんとかの廊下とは黒部川のことだ。それを今回知った。 奥の廊下は特にルートがあるわけではなく、できる限り濡れないように岩場を選んで右岸や左岸を歩く。調子に乗って沢の中を歩いても良いのだが、思わぬ深みにはまることがあり、腰より上を濡らすこともある。濡れるのは良いのだが、カメラが大事なので、沢に入るときは深さを見極めなければならない。 流れの速い沢を反対側の岸へ徒渉する場面があったが、沢の真ん中でChifuさんが立ち往生してしまった。足を踏み出すと軸足が水流で流されてしまうと思ったのだろう、その場で固まっている。3人がかりで押したり引いたりして、さらに後続のパーティーの一人も助けに入りようやくその場から救い出すことができた。本人は冷や冷やだったろうが、その場で流されても下流の浅いところで立ち直れば良いわけで、まわりはあまり緊張感はなかった。 【滝】 立派な滝だがどうやら名前はないらしい。この滝を越えるのはたいへんそうで、山に入り大きく巻いていく。 大きな滝の手前で山道に入り巻いていく。岩の上でしばし休憩。眼下には滝が見えている。沢から離れ、滝を大きく巻いたのはここだけで、再び沢に下りていく。 白い岩場をよじ登ったり飛び渡ったりしながら進んでいくと赤木沢出合いの美しい本流の棚に出る。碧く透き通った泉のような沢は水流を感じさせないほどくっきりと水底を見せている。黒部本流の方には高さ2mほどの幅広い滝があり、止めどもなく水をはき出している。いつまでも見ていて飽きない光景である。ミニ九寨溝といった感じで、日本にもこんな美しい沢があるものだと感心する。 【免平】 赤木沢出合いのあたり。ここから赤木沢にかけて桃源郷のような景色が続く。 赤木沢は右手に入り口がある。控えめなその入り口に入っていくと急に岩床が赤くなる。これが赤木沢と言われる所以だろうか。水深が10cmほどの赤床のナメがしばらく続く。まさに歩くために作られたような廊下である。 【赤いから赤木沢?】 なるほど岩が赤い、喜ぶ三人。沢の水は思ったほど冷たくはない。8:44
赤木沢は変化に富んだ飽きさせない沢である。大げさだが世界遺産に指定してもいいくらいだ。世界自然遺産の登録基準である、「ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象」は満たされている。もっともここが世界遺産に指定されようものなら、観光客が大挙して現れ、環境が破壊されることは言うまでもないことだ。 9:27、樋状の滝2段10mを登ったところで食事休憩。 いくつかの簡単な滝を乗り越え明るい沢を気持ちよく登っていくと、突然正面を高い壁が立ちはだかる。沢はその壁の右の方から降り注いでいる。大滝である。 【大滝】 落差30mの大滝。ほぼ垂直なので登るのは不可能。右側の草付きに巻き道がある。10:37 大滝の上に5mほどの小滝があった。ここまで上流に来るとさすがに沢の規模も小さくなる。上流に向かって2度ほど出会いがあり、いずれも左の沢を進む(記憶は確かではないが)。 【雪渓が源流】 ときには体ごと流されそうになる水流だったが、ここまで来るとちょぼちょぼとしか水は流れていない。水の流れを遡っていくと源頭は雪渓となっていた。 水流の音も聞こえなくなったゴーロ帯を登っていくと、お花畑の広がる草原になる。稜線はもう目の前に見えているが、その手前の草原で休憩。周りはチングルマの群落である。360度の眺望で主要な北アルプスの山々が広がる。太陽の光が降りそそぐ草原でしばらくのんびりする。 あと数十メートルで稜線というところで道が無い。仕方なく適当な場所を歩き、ハイマツや緑の中を突き抜けて稜線に出る。 稜線は赤木沢以上に登山者が行き交っている。縦走している登山者にとっては稜線の雪渓はオアシスである。沢から上がってきた者は水には不自由していないが、縦走者は終始炎天下にさらされ、水も枯渇気味なのだろう。雪渓には多くの登山者が集まっている。遠くから見ていると、雪渓の水をくんでいる親父がその上流でおばさんが水を汲もうとして怒鳴りつけているようだ。 【テン場は遠い】 沢から這い上がって稜線に出たものの、ゴールであるテン場はまだ遠い。赤木岳、北ノ俣岳、太郎山といったピークを越えなければならない。 北ノ俣岳を過ぎたあたりで登山道をうろうろしている雷鳥に遭遇。親子連れで5〜6羽はいる。南や北アルプスに来ると必ず雷鳥に出合うが、運が良いからだろうか。特別天然記念物といっても身近な存在である。 【必ず見かける雷鳥】 はじめはガスが多く、写真を撮ってもはっきりと写らなかったが、しばらくするとガスは晴れ、雷鳥もその場でじっとしていたのでうまく撮ることができた。しかしこれだけ大きく撮ってもすぐには分からないのは雷鳥の擬態がうまくできていると言うことだ。16:07 太郎山までが意外と長く感じる。地図では下った先に太郎山の山頂があることになっている。山の頂上はたいてい上にあるものだが、ここの太郎山は下の方にあるらしい。木道を歩いていると、左手に矢印で太郎山の山頂方向を示していた。多少寄り道だがこの山頂を踏むことにした。他の三人は山頂には興味がないらしく、一刻も早くビールの待つ太郎平小屋へ行くため、先に行った。 太郎山(2372.9m)の山頂はあまり人も寄りつかないのか、ひっそりとしている。三角点があり、ケルンがある。眺望の方はすっかりガスに覆われ何も見えない。来た道を戻り、薬師平小屋まで最後の尾根を下った。 薬師平小屋に到着するや、生ビール(1000円)を買い求める。小屋の前のテーブルで乾杯。山で汗をかいたあとのビールは最高で至福のひととき。胃に流れ込んだビールが五臓六腑に行き渡るのを感じ、一気に酔いも回る。 ほろ酔い気分で薬師峠まで戻ると、テン場はさらに混雑している。我々のテントのまわりも入れ替わっていた。テントに入って昼寝した。 【テン場はいっぱい】 薬師峠のテン場。我々は3泊するのだが、たいていは1泊のテントが多い。午前中であらかた撤収しても、午後には次々と新しいパーティーがやってくる。
続きCamera:Panasonic DMC-FX9,Canon EOS 10D
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