四国から佐賀関へフェリーで上陸したのは、臼杵大仏を見るためであった。朝イチで臼杵大仏を拝み、福岡の実家へ向かう途中の国東半島あたりで山を登ることにした。分県登山ガイドの『大分県の山』で調べ、道中立ち寄れそうなところで、田原山(たわらやま)に決まった。
田原山はあまりメジャーな山ではないが、登山口には登山専用の駐車場(トイレ付き)があり、ありがたいことである。駐車場に鋸山登山案内図があるが、田原山という文字は無い。地域によって呼び名が違うのだろうか。しかし実際にこの山を登ると鋸山の方がふさわしいことがよく分かるのである。
駐車場から車道を渡った反対側が登山口となっている。車道の先には鋸の歯のような岩が連なっている様子が見える。原生林の中の深い緑の登山道に入り、しばらく車道と平行して歩く。車道は見えないが車が通りすぎる音だけが間近に聞こえている。
道は八方岳と囲観音方面に分かれる。右手の八方岳方面に進んだ。周りはスギの植林になり、石が集まって固まったような大きな岩が見えてくる。雫石と書かれている。案内表示はすべて「鋸山の自然を守る会」が作っているようだ。
【大観峰】
阿蘇に大観望という絶景を見渡せる場所があったが、こちらは大観峰。標高こそ500メートル強だが国東半島を一望できる。稜線が鋸の歯のように続いているのが分かる。この先歩いていけるのだろうか。
急坂を上り、
大観峰(542m)という岩の山頂に立つ。事実上ここが山頂のようだ。鋸山というのは山頂はなく、山の総称だったようだ。大観峰はその名の通り眺めが良く360度見渡すことができる。正面に鋸山のやせ尾根が屏風のように続いているのが分かる。
大観峰から八方岳へは一方通行になっている。狭く危険なコースなので賢明な措置である。コースに従っていくともと来た分岐に戻る。
【鎖場】
この山のハイキングコースはかなり難易度が高い。稜線はやせた岩場で、垂直な登りには鎖や足がかりが取り付けられている。
鎖場の岩を登っていくと八方岳のピークとなる。左右は切れ落ちていて鋸の歯の幅は2メートルもない。高いところは慣れていても足がすくむ場所である。
岩のアップダウンが続き、股覗き岩を通過、続いて小松岩、杓子岩と続く。経岩の手前で囲観音堂に降りる分岐がある。本来ならこのまま鋸の歯の上を歩き続けるのだが、GPSはあるもののコースマップを持っていなかった。まわりに歩いている人もなく、不安になってきた。しかも風も出てきて稜線から落ちようものなら、人知れず遭難することになる。迷ったあげく、ここは囲観音堂へ降りることにした。
急な下りを降りると、すぐに
囲観音堂がある。割としっかりと作られ、避難小屋代わりにもなりそうだ。経岩を右に見てそのまま下っていくと、登ってきた道と合流する。10分ほど歩いて駐車場に到着する。
帰宅してから調べて分かったことに、稜線をそのまま進んでいくと重要文化財の
熊野磨崖仏に至ったようだ。これも見ておきたかったがあとの祭りである。調査不足であった。
【大観峰からのパノラマ】
登山口駐車場から車に乗り、鋸山トンネルを抜けて国宝の富貴寺へ立ち寄り、福岡の実家へ帰った。横浜の自宅を出てから三泊四日かかったことになる。